[ゼロから始めるプロジェクトマネジメント] プロジェクトのQCDより目的を優先しよう

プロジェクトマネジメント未経験の方も今日から参考にできるTipsをシェア。 ゼロから始めるプロジェクトマネジメントシリーズ第七回です。 プロジェクトマネジメントにて最優先になりがちなQCD。しかし、それによって目的を見失わないようにしましょう。
2024.05.04

情報システム室の進地@日比谷です。

プロジェクトマネジメントの目的としてQCDという指標の達成はよく取り上げられます。この指標の大切さは認めつつも、それでもQCDにとらわれ過ぎて本来の目的を見失うリスクについて書きたいと思います。

More important than QCD

QCDとは何か?

QCDはQuality(品質)、Cost(コスト)、Delivery(納期)の頭文字をとったもので、PMがプロジェクトをマネジメントする上で重視すべき指標と言われます。また、これらは多くの場合互いに相剋関係にあり、プロジェクト毎にプライオリティを決めることにも使われます。「このプロジェクトではDelivery(納期)が最優先であり、QualityとCostは優先しない」といったように。リソースは常に有限であるため、優先する指標を決めることは妥当なことです。1

さて、そんなQCDですが、プロジェクトマネジメントにおいては過度に重視されているように思います。適正な品質、適正なコスト、適正な納期を達成できればそのプロジェクトは成功であるという過言が罷り通るのは私はおかしいと感じています。なぜなら、QCDはプロジェクトの健康状態を図る指標でしかなく、プロジェクトの目的そのものにはなり得ないものだからです。

QCDを満たした治療は腹痛を治せるのか?

お腹が痛くて病院にかかったとしましょう。丁寧な診察・検査を受け、料金は妥当で、それほど待たされたわけでもありません。この場合、この受診は成功(?)だったのでしょうか?QCDに問題はなさそうですが、腹痛は治ったのでしょうか?そう、何もわかりません。QCDではプロジェクトの成否はわからないのです。

QCDはプロジェクトの問題を洗い出すには有効な指標です。品質が低い(バグだらけだ)、コストが高い、納期が遅れる。これらは確かに問題であり、その意味で重要な指標であることに変わりはありません。しかしながら、だからといって、それが目的にすり替わっていいものではありません。先の例でいえば、腹痛が治ることが目的であり、QCDを満たした治療を受けることが目的なのではありません。

プロジェクトマネジメントする立場からすると、QCDの達成というのは(簡単ではないものの)わかりやすいものです。予防策も取りやすいですし、改善策も打ちやすい。それに比べてプロジェクトの目的というものはプロジェクト毎に異なりますし、曖昧模糊としているものです。一般的なノウハウとしてプロジェクトの目的を満たす手法を提示することは難しく、手法としてのプロジェクトマネジメントとしてはQCDにフォーカスせざるを得ないということは理解できます。

ですが、QCDはあくまでプロジェクトの健康状態を図る指標でしかなく、プロジェクトの成否とは別のモノだという認識は忘れてはいけません。様々なプロジェクト手法もQCDを達成するためのあるモノではなく、プロジェクトの目的を達成するためにあるモノだと理解してください。

プロジェクトは何かを解決するための活動であるはず

プロジェクトとは何かを解決するための活動であるはずで、目的が必ずあります。でなければ行う意味がないのですから。

PMは油断するとQCDの達成にプロジェクトの成否を落とし込んでしまいそうになりますが、そこはグッと堪えてください。プロジェクトの目的は常にQCDより優先です。もちろん、QCDがどうでもいいということではありません。病院の例でいえば、腹痛が治ったとしても治療費がとんでもなく高額であったりしたら、それはそれで別の問題が発生してしまっています。QCDより優先というよりは、QCDを達成した上でさらに目指さないといけないものがあるという感じでしょうか。

誤解しないでいただきたいのは、プロジェクトの目的はPM一人で追求しなければいけないものではないということです。それは、プロジェクトメンバー、関係者全員で目指すものです。PMはそんなプロジェクトの中で、QCDを達成する役割を任されているというとらえかたもできるかもしれません。

QCDを達成できたら、それはPM個人としては役割を一部果たしたということになるのかもしれません。それはそれで評価されていいことだと私も思います。けれど、PMもプロジェクトメンバーの一人であることを考えれば、PMだけが成功してプロジェクトが目的を達成し得ないのではそれは悲しいことです。

そうならないようにPMができることはなんでしょう?オススメはプロジェクトの目的をステークホルダの目に触れる場所に常に掲示しておくことです。そして、QCDもプロジェクトの目的と紐付けて取り上げるのです(「顧客のビジネスにとって、今は不完全でもサービスが多くの人にリーチすることが優先だから、Qualityの悪化はクリティカルなものを除いては目をつぶろう」)。そうすることで、QCDもプロジェクトの局面に合わせて柔軟にプライオリティを調整することが可能になります。

プロジェクトの打ち上げでみんなで美味しいビールを飲むためにも、QCDだけでなく、プロジェクトの目的を意識するようにしましょう。


  1. 「QCDすべてを優先しろ!」といったプロジェクトも稀によくあるので、その時は全力で逃げましょう。